1-3月決算では米大手金融機関6社のうち、モルガンスタンレーを除く5行が黒字になった。しかし、ウエールズ・ファルゴなど時価会計の一部適用や負債評価益など特殊要因の恩恵を受けて利益がかさ上げされたのだから、という議論を良く聞く。
しかし考えてほしい。かさ上げされて数十億の黒字になったのではない。かさ上げされたとしても3000億円の利益である。
それも3ヶ月間の利益である。
(1)「銀行が発行した社債は償還時には満額返済されるのだから時価評価し、一時的に負債金額を減らすのはおかしい」という議論について。――>資産サイドの保有社債も満期には満額返済される。しかし、時価評価をして損失を計上している。資産サイドは時価評価されているのだから負債サイドも同様に時価評価するべきである。それが時価会計というものだ。今回の米銀の場合、過大損失が計上されてしまっていたものの修正にすぎず、利益かさ上げではない、と私は思う。一方だけ時価評価をすると大きな問題が起きるというのは以前、日本の生命保険会社の時価評価の時にも話題になったイシューである。
(2)邦銀のように現損会計で資産サイドが、完璧な時価評価になっていないのなら、負債サイドだけを時価評価をするのは問題である。
すなわち。「資産サイドの社債の市場価格がまだ簿価の半分以上であるからという理由で70%に市場価格が下がっていても簿価100%で評価しているのなら、負債サイドの評価のみを下げる」のはおかしい。しかし米国の場合30%の減だろうと5%の減だろうと、資産サイドは時価会計のため、すでに評価損を計上しているはずである。したがって負債サイドも時価評価をするのは、より健全な会計のはずである。
ちなみに、以下、4月18日に発行した私の新刊「100年に一度のチャンスをつかめ!」(PHPビジネス新書)より
「多くの金融機関が「流動性リスク」を軽視し過ぎたのも大きな問題でした。マーケットに十分厚みがなかったのにあるかのごとくビジネスを活性化してしまったのです。
昔、私の勤めていたJPモルガン・チェースは今回の危機で比較的、ダメージを受けなかったと言われています。株価も他の金融機関の動きに比べれば優等生な動きをしています。そのJPモルガンの投資部門のスティーブン・ブラック共同最高経営責任者のインタビュー記事が日経新聞2009年3月4日長官p7に出ています。その中に「サブプライムローンの分野は全行ベースで融資や証券化などからの早期撤退を決めた。(略)これは(投資家への資金償還という)当行がかぶる流動性のリスクと比べると収益性が低すぎたからだ」という極めて示唆に富む発言が載っているのです。
今回の危機に対し「レバレージ(てこの原理)のかけすぎ」が問題だという指摘をよく耳にしますが、今回の危機の本質は「レバレージのかけ過ぎ」すなわち「少ないお金で大きすぎるリスクを背負ったこと」ではないと思っています。流動性リスクの高い商品すなわち「売りたい時に売れない」商品に深入りしすぎたせいだ、と思っています。
米国の一流金融機関であるならば、どんなにレバレージを取り大きなリスクを取っていたとしてもリスクコントロールシステムが作動し瞬時に対応可能です。しかし流動性がない市場では今回のように「突然市場がなくなってしまう」ことがあるのです。そうなると経験則では予想もしなかった価格がついてしまいます。こうなれば経営陣はコントロール不能になってしまいます。サブプライム・ローンとは所得の低い人達に対するローンです。信用リスクの高い商品のはずです。そんなに高いリスクならば高い値段がついてもしかるべきだったのにそれを無視したつけが起きたのだと考えます。
私は今回の危機は「流動性リスク」と「信用リスク」の問題であって「レバレージ(てこの原理)をかけすぎた」かどうかというような「マーケットリスクの問題ではない」と思うのです。
この教訓は投資家にとっても重要なものです。
マーケットでは「高リスク・高リターン」「低リスク・低リターン」という大原則があります。「何らかのリスクを取らなければ高いリターンなど得られない」のです。「安全なうまい儲け話がありますよ」というのは明らかに眉唾モノなのです。安全で高いリターンがあるのなら、皆がそれに殺到しそのリターンはなくなります。」
